安永の高利金事件 板倉佐渡守の裁定


 安永の高利金事件の裁定を下した板倉佐渡守の判決要旨。板倉佐渡守(板倉勝清 1706〜1780)は老中・上野安中藩主。

  高利金御咎之事
一 去ル安永七戌年十二月二十五日町御奉行牧野大隅守殿御番所へ惣録派頭被召出被仰渡之趣左之通
        惣録 三沢検校
        派頭 六浦検校
        同  嶋河検校
        同  福嶋検校
        同  福岡検校
        同  伊東検校
一 今般高利金貸附候 鳥山検校・梅浦検校・松岡検校・松浦検校・相馬検校・神山検校・川西検校・栗沢勾当・しだ一・ちよ一 右拾人之もの引渡し候間 坐法之通仕置可申付候。并 名古屋検校・丹羽勾当 儀も存命ニ候得は同様可申候所令病死候。
右は板倉佐渡守殿依御差図ニ申渡し候間 其旨可存候。但右検校勾当座頭共 不届ナル金子貸附いたし候浪人町人共ハ遠島ニ申付候間 其趣ニ可相心得候。其方共ヘ別段ニ申渡し候間 得と可承候。

 ―― 「当道大記録」,渥美かをる・前田美稲子・生方貴重 編著;『奥村家蔵 当道座・平家琵琶資料』.p55〜56

 高利金貸し付けの検校・勾当・座頭については座法にしたがって惣録へ引き渡す旨の判決。ただし、同様の罪状の浪人・町人は遠島を申し付けられているため、それに見合う処分が求められるとしている。

 さらに続けて以下のように述べている。

 都而盲人共之儀は針治導引琴三味線の外に渡世も無之 貸金ニ而も不致候而ハ勾当検校ニも相成兼可申哉ニ付当躰ニ金子貸附候儀は其通りニ候得共 此度の検校勾当座頭共甚不届成ル金子貸附いたし候間 御仕置被仰付候事ニ候。然ル処 盲人之儀は不自由成ル身分にて一生を相送り 針治導引琴三味線之余力斗りにてハ勾当検校にも難相成ものも可在之哉。
盲人共格別之御憐愍を以 此度検校勾当座頭共ヨリ御取上ケニ相成候金子五百九両壱分余并貸付金高七万二千五拾五両二分余之証文七百八拾通不残其方へ相渡し遣候間 証文金ハ銘々借主名前之ものへ懸合無利足ニいたし元金高に応し夫々年賦済之積ニ対談致し追々取之 以来盲人共之手当金に余置不如意成ル盲人共へ貸付 家芸出精致し勾当検校にも相進候様 可取斗候。
右之趣 格別之以御憐愍を被仰付候間 難有奉存以来支配之もの共へ厳敷申付 不埒成ル儀無之様急度可取斗候。
右者板倉佐渡守殿依御差図申渡候間 其旨可存候。
  安永七戌年十二月廿五日

 ―― 「当道大記録」,渥美かをる・前田美稲子・生方貴重 編著;『奥村家蔵 当道座・平家琵琶資料』.p56

 盲人は針治・導引・琴・三味線のほかに渡世のすべもなく、金貸しでもやらないことには勾当・検校に昇進することもままならない、と一定の同情を示しつつ、今回の件は許されるものではないとする。
 そして、高利貸しで得られた金銭《509両1分余》と証文780通《7万2055両2分余》を困窮している下級盲人へ下げ渡すという裁定を下している。


 「当道大記録」,渥美かをる・前田美稲子・生方貴重 編著;『奥村家蔵 当道座・平家琵琶資料』,大学堂書店(1984).

 国立国会図書館デジタルコレクション 座頭浪人高利金御吟味ニ付被仰渡御仕置一件 コマ番号 14〜15/21


金融と座中の改革

安永の高利金事件  概要  関係被疑者一覧  板倉佐渡守の裁定

近世当道