願人の修行勧進の事例
式亭三馬の随筆『式亭雑記』に次のような記事がある。 橋本町より出る願人坊に、このごろ流行するもの一人、年齢六十ちかき坊主盲人なり。十一、二歳とおぼしき小僧をひきつれ、かれとかけあいにて大音にて呼ぶ。「小僧とめくらお邪魔になるな、御繁昌さまのやっかい者じゃ、おなまめだんぶつ、オットよかろ、おかげでたすかる、命の親じゃ」。小さき拍子木を打ならし、同じことを両人にて言うなり。「オットよかろ」とは、銭を貰うたる時、あるいは詞をやむる折に言うなり。…… 左図はこの文に添えられたものである。橋本町に住む盲人の願人が子供と二人でかけあいをしながら勧進にまわる。「御繁昌さま」というのは表店の裕福な商家のことだろうか。そうした店先に立って施しを求めながら市中を歩くものであろう。 ―― 吉田伸之;『成熟する江戸』,講談社学術文庫 日本の歴史17(2009).p180 原本刊行 2002年 |
* 橋本町 = 願人の集住地。現在の千代田区東神田付近。 * 左図 = 杖を手にした「盲人の願人」とその傍らの「子供」。 |
国立国会図書館デジタルコレクション 続燕石十種 第1(国書刊行会刊行書) 式亭雑記
加藤康昭;『日本盲人社会史研究』,未来社(1974).p396 にも、この史料の引用がある。